学位論文

行為の増減に着目したアイデア創出のための対話的発想支援に関する研究

Abstract

アイデア創出では,生活を豊かにするために「便利さ」が重視されているが,便利さは豊かさを得る一手段に過ぎず,便利さに対する過度な着目によって,想定外の問題が発生している. これは,確証バイアスにより,便利さの効果を過大評価し,副次的な問題を過小評価することで,問題が生じる.アイデア発想の際には,認知バイアスを緩和し,即時的に実感できる利便性や効率性だけでなく,そのアイデアの適用による影響を考慮した発想が肝要である.本研究の目的は,アイデアの発想時に企図した利便性だけでなく,その実現に伴う副次的な影響までを考慮した大局的な視点を持つ発想手法の確立である.そのため,発想を段階的に分割し,システムとの対話を通じて,アイデアの目的や解消したい不便を明確化し,実現に伴う副次的な影響の検討を試みる.副次的な問題が発生する要因を,便利化前後の行為の増減に着目し整理する.「便利にする」とは,アイデア導入により不便な行為を削減し,便利に必要な行為を増やすことで成り立ち,設計者は不便な行為を解消するため,意図的に行為を減らし,便利に必要な行為を意図的に増やす.このとき,不便な行為を消すことで意図せずになくなる行為と,便利に必要な行為を発生させることで意図せず増える行為により問題が生じる可能性がある.設計者に行為の増減変化を提示することで,便利により変化する行為から「失われる行為」と「生じてしまう行為」を発見し,その影響を考えることで便利化による影響を洗い出し,必要な行為と余分な行為を確認することで,副次的な影響の考慮が可能となる.提案手法では,単に行為の増減を提示するだけでは,変化の理由や影響を考慮しにくいため,アイデアの構成要素を具体化し,行為の増減を適切に捉えることで,アイデアの評価・検証を可能にする.提案手法として,発想プロセスを段階的に分割し,LLMを利用した対話的発想支援システムを構築する.発想プロセスは,(1)新しいアイデアを発想するための発散的思考,(2)アイデアの目的や解消したい不便の明確化,アイデアの本質を追求する収束的思考,(3)TRIZを用いたアイデアの結晶化とそのアイデアの実現方法の評価,(4)行為の増減に着目したアイデアの実現がもたらす副次的な影響の検証である.プロセスに基づいたシステムとの対話を通じて便利の副作用を考慮した発想が促進されるかを検証するため,大学生16名を対象にユーザ実験を実施した.ユーザに「傘」をより便利にする新しいアイデアを考案させ,システム使用前後で便利の副作用への気づきとそれを踏まえたアイデアの再考案への影響を測った.システム使用前後の便利の副作用の平均的増加率は2.25倍であり,有意に増加しており,提案システムは見落としていた便利の副作用への気づきを促進することが示唆された.見落とされやすい問題点として,アイデアがもたらす社会的影響,技術的課題,既存のモノで得られていたメリットの喪失の3つが確認された.また,システム使用前後のアイデアの文字数のユーザごとの平均増加率は1.93倍であり,機能の具体化や副作用を対策する機能が追加されていることが示された.今後は,提案システムにより,便利の副作用の見落とされやすさやユーザの問題認識能力の違いを含む知見を蓄積し,個々のユーザの特性に応じた副作用の発見支援やフィードバックを提供し,より効果的な支援を実現する.

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Book title

2024年度関西大学大学院総合情報学研究科修士論文

Date of issue

2025/02/18

Date of presentation

2025/02/17

Citation

畑 玲音. 行為の増減に着目したアイデア創出のための対話的発想支援に関する研究, 2024年度関西大学大学院総合情報学研究科修士論文, 2025.