Abstract
本研究の目的は,熟達農家の保有する経験知の外在化を支援することである.
近年,熟達農家の経験知を活用した学習支援が農業技術の向上に期待されている.
農業知識や技術の多くは熟達者の頭の中にだけしか存在しないことも指摘されているが,熟達農家がどのような内容を表出すればいいのか不明瞭であり,知識を外在化するための支援が必要不可欠である.
特に地域性や農地環境の影響が大きい果樹を対象に熟達農家がこれまで暗黙的に判断してきた基準や意図を言語化・構造化するための枠組みを整理し,大規模言語モデル(以下,LLMと記す)を用いた対話システムを通じて,経験知として蓄積すべき要素を判定し,言語化が不十分な要素を判定して深掘りする.
これにより,農家との対話を通じて経験知を整理・構造化し,熟達農家の経験知を収集する仕組みを構築する.
熟達農家がこれまで暗黙的に判断してきた基準や意図を言語化・構造化するための枠組みを整理するために,みかん・梅農家1名を対象に半構造化インタビュー調査を行った.
収集した発話データを発話間で比較を行い,カテゴリを生成した.
その結果,カテゴリは合計22項目を生成することができ,「背景」,「目的」,「方法」,「実践」,「その他」の観点から整理することができた.
「背景」のカテゴリは,農家は対象の作物状態や土壌状態などを観察し,その状態が生じた原因を環境要因や生育過程と照らし合わせて分析していることを示した.
「目的」のカテゴリは,現状と理想状態の差分が明確化され,その問題を補うために農作業が実行されると推察できた.
「方法」のカテゴリは,農作業は,農作業は習慣的な流れ作業ではなく,明確な判断基準にもとづいて実施されていることが示唆された.
「実践」のカテゴリは,作業の適切なタイミングや時間を判断し,それに基づいて農作業が実施されることが分かった.
「その他」のカテゴリは,農作業の決定において代替手段の検討や手段の影響を考慮するプロセスが含まれていることが示された.
果樹農家の暗黙的な経験知を外在化するために,提案するシステムでは,LLMを用いた対話システムを通じて,農家の発話内容を解析しながら,経験知として蓄積すべき要素にもとづいて言語化が不十分な部分を判定して深掘りする.
これにより,果樹農家が農作業の基準や意図の言語化がしやすい環境を提供する.
提案するシステムが(1)作業理由を言語化できることと,(2)負担なく言語化できることが可能か明らかにするため,ユーザ観察を試みた.
その結果,ツールの有効性については,「None」として記録されるところが複数確認された.
これは,LLMが他のカテゴリに含まれている要素を誤判定してしまうことや果樹農家が意識していない部分が原因で収集されなかったことが示唆された.
また,ツールの有用性については,文章入力による負担や同じ内容を記入による負担が示唆された.
今後は,果樹農家の記録への負担と記録内容が十分でないという課題に対して,ツールを改良することで記録への負担軽減と内容の深化を目指す.
これにより,経験が浅い就農者に対して知識を継承をすることを目指す.
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Information
Book title
2024年度関西大学大学院総合情報学研究科修士論文
Date of issue
2025/02/17
Date of presentation
2025/02/17
Citation
新川 晴紀. 果樹農家の経験知の蓄積に向けた作業理由の外在化支援に関する研究, 2024年度関西大学大学院総合情報学研究科修士論文, 2025.