学位論文

理学療法士間の知識共有に向けた臨床推論テキストの構造化に関する研究

Abstract

臨床推論とは「臨床現象を論理的に考え,問題を解決していくプロセス」を指し,理学療法士が治療立案をするにあたって重要な要素の1つである. しかし,臨床推論は患者の個別性や多様な状況に応じて変化する思考プロセスであり,単純な知識の習得のみでは身につかないため,その教育は容易ではない. そのため,臨床推論教育では臨床実践の言語化と知見の外在化および共有が重要となる. 診療記録や症例レポートには理学療法士の思考過程が記されているが,自由記述形式のため表現の曖昧性や多義性が情報の検索や比較を困難にしている. 本研究では,臨床推論テキストを国際生活機能分類(ICF)や国際疾病分類(ICD)といった医療分野の国際分類に基づき構造化し,共通の枠組みで整理することで知識共有を容易にすることを目指す. これにより,患者の問題を多面的に捉え,根拠に基づく治療提供能力を養うことにもつながる. 本研究では,臨床推論テキストを分類するモデルを構築し,ICF・ICDの分類項目を対応付ける. しかし,ICF・ICDには膨大な分類項目があるため,大腿骨頸部骨折などの症例ごとに分類モデルを作成し,分類項目を分割することで精度向上を図る. 本研究では,大腿骨頸部骨折の模擬症例を対象に,理学療法士との議論を通じて26項目(心身機能:10,身体構造:5,活動・参加:4,疾病:7)を選定し,分類モデルを構築した. モデルはBERTを用いた8つの分類器からなり,2値分類フェーズで大まかに判別し,マルチラベル分類フェーズで詳細分類を行う. モデルの有用性を評価するため,大腿骨頸部骨折の推論文章55件から抽出した813文に対し,人手によるアノテーションを実施し,データセットを構築した.学習データ650文,評価データ163文に分け提案モデルと単一のマルチラベル分類器での比較を行った.提案モデルの精度は正解率0.950,適合率0.587,再現率0.407,F値0.480であった一方,単一のマルチラベル分類器はTrue Positiveを1つも分類できず,提案モデルの優位性が示された. 次に,分類性能向上のため,データ拡張を実施し,学習データを2倍の1300文に増加させた. その結果,正解率0.963,適合率0.754,再現率0.523,F値0.618となり,適合率・再現率・F値が約28.0%向上した. 一方,単一マルチラベル分類器の適合率は0.800に向上したが,その他の指標では提案モデルを下回った. また,提案モデルでは6項目でF値0.800以上を示したが,全26項目中True Positiveが得られたのは12項目にとどまり,ラベル不均衡の影響が示唆された. 今後は,分類精度を向上させるため,学習データに対してラベル比率を考慮したデータ拡張を実施するとともに,ICF・ICDのより下位の階層への分類および評価点推定などを目指す.

Information

Book title

2024年度関西大学大学院総合情報学研究科修士論文

Date of issue

2025/02/17

Date of presentation

2025/02/17

Citation

櫟 力輔. 理学療法士間の知識共有に向けた臨床推論テキストの構造化に関する研究, 2024年度関西大学大学院総合情報学研究科修士論文, 2025.